映画を共有することで得られる人間性『キノ・ライカ 小さな町の映画館』ヴェリコ・ヴィダク監督来日舞台挨拶

『キノ・ライカ 小さな町の映画館』公開中

映画監督アキ・カウリスマキ(『ル・アーヴルの靴みがき』『希望のかなた』『枯れ葉』)が仲間たちと作った映画館「キノ・ライカ」をめぐるドキュメンタリー映画『キノ・ライカ 小さな町の映画館』が、12月14日(土)よりユーロスペースほかで全国公開。このたび公開を記念し、監督を務めたヴェリコ・ヴィダクによる来日舞台挨拶をしました。

満員の観客に盛大な拍手で迎えられたヴィダク監督は、「日本で映画を上映し、公開初日に舞台挨拶を行うことが出来て大変嬉しく思います」と満面の笑みを浮かべました。

 

出演している皆さんがすごく自然に話している姿が映っていたが、どのように演出されたのでしょうか?と尋ねられると次のようにコメントしています。

 

「アキ・カウリスマキ監督をはじめ、出演している多くの人々は実際にカルッキラに住んでいます。とても重要だったのは、カメラの前でいかに自ずからなる自分でいるかを教えなければなかったです。この企画を始める際に、カウリスマキ監督に、こういうプロではない俳優、いわゆる素人の人たちに対してどうやって演出するのかと尋ねたら、彼はこう言いました。“彼らをプロの俳優のように扱う、あるいは飼い犬と同じように扱うことだ”とアドバイスを貰いました」

 

「フィンランド人は寡黙な人たちなので、演出が難しかった。真実であり、同時にフィンクションのようにしてリハーサルを重ねながら、再現していくという行為が必要だった。出来上がったものは真実であり、彼らの言葉であることは間違いがないです」

 

また、カウリスマキ監督の作品が好きで観に来たという観客からカウリ

スマキ監督は気難しいという印象だが、すぐ仲良くなれましたか?どのような話をされたのですか?との質問には次のようにコメントしています。

 

「たしかに彼は気難しい人として知られており、近寄りがたいという印象を持たれていると思います。特にジャーナリストたちの間では、真正面ではなかなか答えない、おちゃらけて答えたり、インタビューをひっくり返したりするようなことがあるので、彼にインタビューをするのは怖いという人も居るぐらいで、そういう意味でも特別な人かなと思います」

 

「以前、ベルリンに住んでいた時に1日に3~4本観るぐらいシネフィルのような生活を送っていた。そのタイミングで、カウリスマキ監督の作品を全て観たんです。ひとりレトロスペクティブをやった直後に、偶然にもベルリン映画祭に来ていたカウリスマキ監督に出逢ったんです。彼はポツダム広場で一人佇んで座っていたんですが、“アキ・カウリスマキ監督だ!”と思って、“この1週間で、あなたの作品をすべて観たのですが、映画にとって一番の基礎が何であるかを知ることになりました”と話し掛けたんです。そうしたら、カウリスマキ監督が“映画の原理とは何なの?”と尋ねてくれたので、“映画というものはひとつの芸術形態であり、芸術に徹するということもできますが、それだけでは空っぽの器になってしまう。もうひとつ重要な材料は人間性です。あなたの映画を観て、そのことに気付かされました”と答えました。彼はいつものごとく非常に自己卑下するというか謙遜するような態度だったのですが、いろいろ話をしていく中で、私が正直に想いを伝える態度が気に入ったのか面白いと思ってくれたのか、なかなかアプローチがしにくい人にも関わらず、納得してくれたようです」

 

カウリスマキ監督の新作について何か知っているか?との質問には次のように明かしています。

 

「『枯れ葉』が非常にミニマリストな映画だったので、次はエルンスト・ルビッチのような作品にするんだと言っていましたよ」

 

映画『枯れ葉』を観て、アキ・カウリスマキ監督作品にハマったいう観客から、カウリスマキ監督は小さな幸せを見つけるのが上手いという印象を受けたのですがヴィダク監督がカルッキラの町で過ごして気付かされたことはあるか?と問われ、次のようにコメントしています。

 

「カウリスマキ監督の世界と、カルッキラの中の非常にシンプルな生活や現実は作品と近しいんだと気付かされました。フィクションとして描かれているのですが、ドキュメンタリーよりもより現実を映し出しているんです。私自身も映画の中で現実をいかに再現していくかが課題でした。リアリティとシネマの関係性、その中の行き交いを経験しました」

 

最後に、次のように思いを打ち明けました。

 

「今回初めて日本に来ることが出来て、それが自分の映画の公開日だということに改めて嬉しく思っています。この映画をもって、世界中を旅する生活を送っているのですが、カルッキラから東京にこの映画を持って来れたことを考え合わせると、生活の中にある喜びの瞬間が大事だなと感じています。また、映画というものが人間にとってどういう意味があるのだろうかということを考えさせられています。人が映画と出逢ったり、人と人が出逢ったり、共有してくような空間がまさに人間性みたいなものを映し出していると思います。このような小さな空間が失われれるというのは、ただ映画の上映の場が失われるということよりも大きな喪失ではないかと感じます。観客の皆さまあっての映画です。今日は劇場にお越しいただき、ありがとうございました!」

カウリスマキらがはじめての映画館をオープンするまでのドキュメンタリー

北欧フィンランドの鉄鋼の町・カルッキラ。深い森と湖と、今は使われなくなった鋳物工場しかなかった小さなその町に、はじめての映画館「キノ・ライカ」が誕生する様子を捉えたドキュメンタリー映画。

 

自らの手で椅子を取りつけ、スクリーンを張るのは映画監督のアキ・カウリスマキと仲間たち。キャデラックにバイク、ビールと音楽。まるでカウリスマキの映画から抜けでたような町で、住人たちは映画館への期待に胸をふくらませ、口々に映画について話しだします…。

 

『キノ・ライカ 小さな町の映画館』は、12月14日(土)よりユーロスペースほか全国公開。

 

[作品情報]

『キノ・ライカ 小さな町の映画館』

原題:「CINEMA LAIKA」

監督・脚本・撮影・編集:ヴェリコ・ヴィダク

脚本:エマニュエル・フェルチェ

出演:アキ・カウリスマキ、ミカ・ラッティ、カルッキラの住人たち、ジム・ジャームッシュ

2023 年/フランス・フィンランド/81 分/2.00:1/DCP/フンランド語、英語、フランス語

配給:ユーロスペース 

提供:ユーロスペース、キングレコード

公式サイト eurospace.co.jp/KinoLaika

公式 SNS X @eurospace_d Instagram @eurospace_distribution