形而上絵画だけじゃない!その生涯を辿る「デ・キリコ展 Giorgio de Chirico: Metaphysical Journey」

「デ・キリコ展 Giorgio de Chirico: Metaphysical Journey」8月29日まで開催中

ジョルジョ・デ・キリコの初期から晩年に至るまでを100点以上の作品で振り返る「デ・キリコ展 Giorgio de Chirico: Metaphysical Journey」が、東京・上野の東京都美術館で、8月29日(木)まで開催中です。本稿では、事前に行われた報道内覧会を元に、全体像を紹介します。

 

展示風景・会場写真:fy7d遠藤

クレジット:(C)Giorgio de Chirico,by SIAE 2024

本展では、1910年頃描き始めた「形而上絵画」のみならず、初期から描き続けた自画像や肖像画、西洋絵画の伝統に回帰した作品や晩年の「新形而上絵画」、さらには彼の手掛けた彫刻や挿絵、舞台衣装のデザインまで、その幅広い創作活動が紹介されています。

SECTION1:自画像・肖像

最初のセクションには、肖像画とりわけ自画像が並びます。自画像は過去の巨匠たちの作品との対話において最も重要なテーマのひとつで、様々 な衣装をまとい自己を演出しています。

SECTION2−1:形而上絵画

デ・キリコの代名詞とも言える「形而上絵画」は、1910年代に描き始めました。簡潔明瞭な構成で広場や室内を描きながらも、歪んだ遠近法や脈絡のないモティーフの配置、幻想的な雰囲気によって、日常の奥に潜む非日常、神秘や謎を表すその画風は、ニーチェの哲学に影響を受けており、シュルレアリストなど多くの芸術家に衝撃を与えました。

SECTION2−2:形而上的室内

第一次世界大戦の勃発により軍から召集されたデ・キリコは、1915年にフェッラーラの病院に配属されます。ここで彼は、この町の家の室内、店先のショーウインドウなどに魅せられ、室内画を制作します。このシリーズは、線や四角、箱、地図、ビスケットなどのモティーフを組み合わせて構成されています。

SECTION2−3:マヌカン

デ・キリコは「形而上絵画」において、マヌカン(マネキン)をモティーフとして取り入れました。これにより、古典絵画において重要なモティーフであった人物像を、他のモティーフと同じモノとして扱うことが可能となったのです。マヌカンには、謎めいたミューズ、予言者や占い師、哲学者、自画像など様々な役割を演じさせています。

SECTION3:1920年代の展開

1920年代のデ・キリコは、従来からのマヌカンに加え、「剣闘士」など新たな主題にも取り組みます。

 

その新しい主題に「室内にある風景」と「谷間の家具」があります。これらの作品では、海や神殿、山々など、本来は外にあるはずのものが天井の低い部屋の中にあり、逆に屋内にあるべき家具が外に置かれており、ちぐはぐで不穏なイメージを作り出しています。

SECTION4:伝統的な絵画への回帰-「秩序への回帰」から「ネオ・バロック」へ

デ・キリコは、1920年頃からティツィアーノやラファエロ、デューラーといったルネサンス期の作品に、1940年代にはルーベンスやヴァトーなどバロック期の作品に傾倒、西洋絵画の伝統へと回帰していきます。過去の偉大な巨匠たちの傑作から、その表現や主題、技法を研究し、その成果に基づいた作品を描くようになります。

SECTION5:新形而上絵画

1978年に死去するまでの10年余りの時期に、デ・キリコはあらためて形而上絵画に取り組みます。それらは「新形而上絵画」と呼ばれ、若い頃に描いた広場やマヌカン、挿絵の仕事で描いた太陽と月といった要素を画面上で総合し、過去の作品を再解釈して新しい境地に到達しています。

TOPIC1:挿絵

ジャン・コクトー「神話」のための挿絵として製作された版画連作「神秘的な水浴」からは、幼少期にシチリア人の父に海水浴に連れて行ってもらった記憶が潜在意識にあったことが窺えます。

TOPIC2:彫刻

デ・キリコは、第二次世界大戦の間フィレンツェとミラノを往復するうちに彫刻に特別な関心を持つようになります。実に柔らかく絵画的で、テラコッタにはしばしば油絵の具で彩色が施されるなど、自身のモチーフの立体化に没頭しましたが、戦争がその障害となったとみられます。

TOPIC3:舞台芸術

1924年にパリで上映されたバレエ「大甕」の舞台美術と衣装に端を発する舞台美術は、「夢と不条理の演出という点で演劇的」(『デ・キリコ展図版』)な形而上絵画とつながることもあって、散発的とはいえ、1960年代初頭に掛けていくつもの重要な劇場で多くの舞台芸術と衣装を手掛けました。

ジョルジョ・デ・キリコ邸宅美術館

ローマのスペイン広場にあるジョルジョ・デ・キリコ邸宅美術館は晩年を過ごした住居兼アトリエ。デ・キリコは幾度となく転居を繰り返していましたが、1947年60歳の時にこの家にアトリエを構え、翌1948年から、ここで妻であるイザベラ・ファーと晩年の30年を過ごし、亡くなる直前まで制作活動を行いました。

 

1978年デ・キリコ亡き後も、妻のイザベラは1990年までここで暮らし、彼女の遺言によりデ・ キリコ没後20年にあたる1998年11月20日に邸宅美術館として一般公開されました。

 

ここでは、デ・キリコの絵画や彫刻などの作品が展示されている部屋や、生前の制作の様子をできる限り再現したアトリエなどを見ることができます。ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団のオフィスと図書室もあります。

コラボ企画も豊富

展覧会開催を記念して、展覧会オリジナルグッズや図版が販売されるほか、イタリア菓子専門店ラトリエ モトゾーの藤田統三シェフのオリジナル菓子、ヒグチユウコの描き下ろしアートワークを使用した缶バッジが販売されています。

 

そのほかにも、アトレ上野「ブラッスリー・レカン」(〜8月29日)、芝パークホテル「ザ・ダイニング」(6月3日〜8月29日)では特別コラボメニューが提供されます。

 

「ザ・キリコ」展は、8月29日まで東京・上野の東京都美術館で開催。

 

[開催概要]

●東京

会期:4月27日(土)〜8月29日(木) 

会場:東京都美術館(東京・上野公園)

休室日:月曜日、5月7日(火)、7月9日(火)~16日(火)

※ただし4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)、7月8日(月)、8月12日(月・休)は開室

開室時間:9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで) 

主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、朝日新聞社

後援:イタリア大使館、J-WAVE

特別協賛:大和証券グループ

協賛:ダイキン工業、大和ハウス工業、竹中工務店、NISSHA 

協力:ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団、メタモルフォジ財団、イタリア文化会館、日本航空、日本貨物航空、ルフトハンザ カーゴ AG、ITAエアウェイズ

 

●神戸

会期:9月14日(土)~12月8日(日) 

会場:神戸市立博物館  

主催:神戸市立博物館、朝日新聞社、関西テレビ放送

後援:イタリア大使館

特別協賛:大和証券グループ

協賛:大和ハウス工業、NISSHA 

協力:ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団、メタモルフォジ財団、日本航空、日本貨物航空、ルフトハンザ カーゴ AG、ITAエアウェイズ