「『童夢』や『パプリカ』にも影響受けた」北欧スリラー『イノセンツ』監督映像

北欧サイキック・スリラー『イノセンツ』7月28日公開

アカデミー賞ノミネート(脚本賞)監督エスキル・フォクトの最新作にして世界の映画賞を総なめにしたサイキック・スリラー『イノセンツ』が、7月28日(金)新宿ピカデリーほかにて全国公開。このたび、エスキル・フォクト監督のインタビューとメッセージ映像が到着しました。

フォクト監督は、大友克洋さんの漫画「童夢」にインスピレーションを受けたことについて、思い入れや影響など次のように明かしました。

 

「きっかけは、大友克洋監督の映画『AKIRA』を観て、漫画を読んだことでした。彼が描いた他の漫画の英訳版がないか探して、『童夢』を見つけたのです。『童夢』を初めて読んだのは90年代で、なぜ映画化されないのだろうと思ったくらいです。『AKIRA』は壮大な物語で、1本の映画にするには大変な作品なのを考えると、『童夢』は映画化するのにぴったりの作品だと思いました。そこから何年も経って、ヨアキム・トリアー監督と二人で、『テルマ』という超能力が登場するホラー映画を作ることになった時、若い時に感化された、スティーヴン・キングなどの小説を読み返したりしましたり、観返したりしました。その時に『童夢』も読み返したのですが、私が父親になったので、昔よりもさらに大きな衝撃を受けたのです。子供が危険な目に遭うというのもそうですが、大人にはわからない子供だけの秘密の世界があるというところが非常に独創的だと思いました。父親として日ごろ子供を愛しているけど、息子が見ている世界を理解できない自分を感じていたからだと思います。子供の世界には魔法があり、何でも可能なのです。自分の感情を言葉で表現できなくても、強い感情を抱えていて、それが毎秒変わるのです。大人とは全く違う世界です。なので、そんな大人にはわからない子供だけの世界で起こる物語を映画にしたらどうだろうかと思ったのです。特に最後のクライマックス・シーンが素晴らしいので、今作でも参考にさせて頂きました。誰にも気づかれないだろうと思ったのですが、こうして日本公開が決まってしまったので、皆んなにバレてしまいますね。日本の皆さんが気に入ってくれることを願います」

 

物語のアイデアのきっかけについては次のように語ります。

 

「きっかけは子供を持ったこと、彼らが不器用ながらも世の中を理解しようとする姿を見たことでした。そのとき、私自身の幼少期の思い出も蘇ってきたのです。子供の頃の私たちがいかに根本的に違っているか、いかに激しく物事を感じ、同時にいかにオープンで、時間の捉え方が異なっているかに気づきました。子供を見ているとき、特に、自分が何者なのかまだ分かっていない頃の子供を観察することに幸福感を覚えました。学校に子供を迎えに行くまでの時間、子供たちにはあなたと一緒にいない秘密の生活があるのです。それがとてもワクワクすることだと思いました。大人が子供らしさを持つことは難しいと思います。私は子供から学ぼうと、幼少期の経験を思い出すようにしました。よく引っ越しをしていたので、それぞれの期間で思い出があります。5歳か6歳のとき、森の横の大きなアパートに住んでいて、今でも階段を歩いているときや森に行ったときの感覚を覚えています。幼少期の経験は幸せなものとしてノスタルジックに思い出されがちですが、知らないことも多く、恐怖の時間もあったはず。子供は素晴らしくファンタジーな想像力を持っています。子供の頃ほどの恐怖を大人になってから感じたことはありません」

 自閉症の姉のアンナを描くにあたり、自閉症の子供を持つ家族についてもリサーチをしたのでしょうか。

 

「この映画を作ろうと思ったきっかけは、後天性の自閉症の子供を持つ作家にインタビューしたことでした。4歳までは言葉を話すことができたものの、ある日言葉を失い、自分の中に閉じこもるようになってしまったのです。もちろん、子供のことを愛していますが、子供を持つ親として、それは悪夢だと思いました。子供が殻に籠ってしまっていると思わずにはいられません。それがストーリーの一部になっています」

 

『イノセンツ』には7歳から11歳の子供たちが登場しますが、その年代の子供たちの特徴はなんでしょうか。

 

「子供たちは12歳になると、ティーンエイジャーの仲間入りをし、セクシュアリティを自認しはじめます。これは確かに魅力的なテーマではありますが、本作のテーマではありません。私は子供時代を、大人になる前の流動的で魅力的な時代と位置づけたかったのです」

 

『イノセンツ』というタイトルには、どのような意味が込められているのでしょうか。

 

「子供は善悪の概念を超えている、もしくはそれよりも前に存在していると思います。しかし、人は純粋な心で生まれてくる、子供は小さい天使だ、とは思いません。子供は共感性も道徳も持たずに生まれてきて、私たちがそれを教えなければいけないのです。だから大人が悪だと思っていることを、子供がやってしまうと面白いのです。道徳はまだ完全に形成されておらず、より複雑です。子供が小動物の目を突く児童心理学の研究を読んだことがあります。それは必ずしも危険の兆候ではなく、彼らは実験をしながら、違ったリズムで共感性や若さを成長させていくのです。道徳の基本は、親が『これは間違っている』『これは正しい』と教えることですが、本当の意味での道徳は人々の中に根付いていて、自分自身が『悪い』と感じることなのです。道徳の指針を見つけるには、実験して、親の教えを逸脱することが必要です。私にとって重要なのは、本作に登場する最も危険な子供が、決して悪い子供ではないということでした。子供たちは皆、人間らしさを保っているのです。

 

観客には『イノセンツ』から何を受け取ってほしいかについては、「特にこの作品ではよく観客について考えました。シートから身を乗り出したり、息を飲んだりするような演出をしたいと思うものです。特に嬉しいのは、映画を観た後に、幼少期に感じた魔法について話し合ってくれることです。子供の頃の自分や善悪の限界について、誰にでもあるような思い出を語ってほしいのです。この映画が、忘れかけていた記憶を呼び起こすきっかけになってくれればと思っています」とコメントしています。

 

移民の子供のベンやアイシャなど4人の子供たちのルーツや、あえて曖昧に描かれていた家庭環境などキャラクター設定については、次のように明かします。

 

「当初は、自分の子供時代を思い浮かべながら、全員北欧系の白人の子供という設定で脚本を書いたんだ。その後、性別や人種に関係なく、幅広くキャストを公募した結果、多様性のあるキャスティングになった。だからといって、元々の脚本を大幅に変更する必要はなかった。なぜなら、作品では人種や性別にまつわる政治的なメッセージがあるわけではなく、閉ざされた子供だけの世界で起こる物語を描こうとしたから。そして、何があっても、僕は子供たちの味方でなければいけないと思った。子供たちは間違っていなくて、悪いのは親だ、という視点だ。これは、さまざまな度合いの親による育児放棄の話でもある。どんな家庭でも、子供のニーズに全て応えることはできない。どうしても手が回らないことはある。主人公の場合、お姉さんが重度の自閉症だということで、母親がお姉さんにかかりっきりで、彼女は自分の力でやっていくしかない。子供にとっては可哀想な状況だ。他の家庭は、僕のイメージとしては、アイシャは、ソマリア人の移民の母親がいて、ノルウェー人の白人の父親が最近他界したばかりだ。その死と悲しみが家庭に重くのしかかっている。母親は、映画に登場する中では最も愛情を持った、思いやりのある親だけど、喪失によって悲嘆に暮れているのと、シングルマザーになって、家庭を支えるために働かなきゃいけなくなったことで苦労している。夜も働きに出て、留守も多いけど、娘のことをとても愛していて、愛情も示している。それに比べてベンは全く違う家庭環境だ。父親は家を出ていってしまって不在だ。ベンを演じたサム・アシュラフに伝えたこのキャラクターの背景は、父親はおそらく母親に暴力を振るっていたのだろう。そしてベンはそんな父親と似ているのだろう。だから母親は彼に対立感情を抱いていて、それを彼にも見せている。だから彼女は登場する中で最も酷い親だろう。そういう背景があるため、物語の視点としては常に子供たちの味方であり、彼らのとる行動は、家庭環境が大きく影響をしている。ベンの場合は、育児放棄に加えて、母親によって言葉による虐待を受けていることも匂わせていて、身体にアザもあるから、母親から身体的虐待も受けている可能性がある。それゆえに、彼はあの年齢になっても他人の気持ちを理解する共感力が身についていないということがわかる。共感力が全くないわけではなく、子供の場合、共感する相手を選んでいる。だから、物凄く優しく思いやりを見せる瞬間もあれば、全く見せない時もある。彼がまさにそれ。というのが、大まかな子供たちにまつわる設定で、そうと匂わせるヒントが映画の各所に散りばめられていて、それをもとにどう解釈するかは、観客次第なんだ」

 

 『童夢』以外の作品で、本作が影響を受けた日本の漫画やアニメ、映画などはあるかという質問にエスキル監督は次のように明かします。

 

「数えきれないくらいある。今作に関連して言うと、作る前に今敏監督の『パプリカ』を見直した。精神が錯乱した人の頭の中を描いた傑作だと思う。狂気の描き方が鮮烈だ。今作では、ほんの少し『パプリカ』に似た、取り憑かれてしまっている側面があるから見直したけど、今でも傑作だと思う。日本映画全般に関して言うと、それこそ黒沢明監督から、成瀬巳喜男監督、溝口健二監督、鈴木清順監督。もっと最近のものだと、90年代は、ヨアキム・トリアー監督と二人で北野武監督の作品に夢中になった。その中でも『ソナチネ』は衝撃だった。石井聰亙監督の『ユメノ銀河』も好きだったのを覚えている。本当にたくさんあるよ」

 

さらに日本のファンに向けて動画メッセージも到着!

 

「この作品が日本でも公開されることになって心から喜んでいます。僕の子供時代の思い出と共に、日本の漫画や映画からもたくさん影響を受けた作品なので、皆さんに気に入ってもらえれば嬉しいです」

子どもたちの無邪気な遊びが恐ろしい事態に…

舞台は、郊外の住宅団地。夏休みに友達になった4人の子供たちは、親た ちの目の届かないところで隠れた力に目覚めます。近所の庭や遊び場で新しい力を試す中で、無邪気な遊びが影を落とし、奇妙なことが起こりはじめます…。

 

『イノセンツ』は、7月28日全国公開。

 

 

[作品情報]

『イノセンツ』

原題:『De uskyldige』 英題:『THE INNOCENTS』

監督・脚本:エスキル・フォクト

撮影監督:シュトゥルラ・ブラント・グロヴレン

出演:ラーケル・レノーラ・フレットゥム、アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタ、ミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイム、サム・アシュラフ、エレン・ドリト・ピーターセン、モーテン・シュバラ

2021 年/ノルウェー、デンマーク、フィンランド、スウェーデン/ノルウェー語/カラー

日本語字幕:中沢志乃 

提供:松竹、ロングライド 

配給:ロングライド

https://longride.jp/innocents

© 2021 MER FILM, ZENTROPA SWEDEN, SNOWGLOBE, BUFO, LOGICAL PICTURES