積水ハウスが発表した、オーナーの“感性”をより効率的に反映するデザイン提案システム「life knit design」。その発表に先立つ今年1月末には、このコンセプトを具現化したモデルハウスを完成させていました。今回はその「駒沢シャーウッド展示場 HUE」を実際に巡ってみました。
“感性”価値に基づく家造り
その名にある「HUE(ヒュー)」とは、色相のこと。重なることで色が豊かになるように、時を重ねることでこの家での記憶も豊かになっていくようにとの意味が込められているといいます。2030年に向けて物質的価値より感性価値を重視しようという姿勢が伺えます。
コロナ禍によって家族全員が家に居る時間が長くなり、「居心地が悪い」という声がちらほら。実際、それまでの住宅は昼間に人が居ない前提で造られていたことに気づいたといいます。
コロナ禍が明けたとみられる現在も在宅でも結構仕事ができること、超高齢化やVR、メタバース時代の到来が見えている現在、自宅の間取りは長期的なスパンで見つめ直す必要があると考えたデザインチームは、3つの特徴を打ち出し、このモデルハウスに反映させました。
ひとつめは、「HUE」を象徴する庭。自然の醸し出す豊かさを実感できる中庭に、光が透けて見える葉をもつアオハダを植えています。
ふたつめは、愛着の沸くインテリア。住む人にとっての関心事は家の見栄えよりもインテリア。天然木挽き板に草木染めのフローリングに、壁は全面珪藻土。人の手によるゆらぎや自然光が造る影が記憶の背景となり、オーナーお気に入りのアートや小物、ヴィンテージ家具が空間を彩ります。
三つめは、居心地。これまで断熱/耐震といったハード面を前面に押し出してきたのに対し、コロナ禍を経て、住宅性能があるのは承前、プレハブ住宅ならではの価値を超えた新しい価値を表現していこうと考えたとのことです。
テキスタイルデザイナー皆川明と1年掛かり
今回顧問に迎えたのは、ミナ ベルホネン皆川明。テキスタイルを中心に、近年は店舗やホテルなどの空間プロデュースも行っているデザイナーです。
その提案は、実に現実的で具体的。デザインチームも皆川との1年におよぶ協業で大変刺激を受けたといいます。色遣い、なかでもテキスタイルや木の選び方や、常に住まい手目線での提案には、目から鱗が落ちたとデザイン担当者は語ってくれました。
たとえば、これまでのようなプレハブ住宅のメリットを生かした柱のないLDK一体空間では、来客があるとほかの家族の居所がなくなる。そこで、家をひょうたん型の間取りにし、来客はかつての応接間のように玄関入ってすぐの場所に配置。中庭とそれを眺めるニッチなスペース「コージー」を経た先に、家族にとってもっとも豊かなスペース「ダイニングキッチン」が。東側の窓には自然があり、午前中は差し込む光と葉陰が珪藻の壁に映り込みます。
キッチンも一時期流行した対面カウンターではなく、調理する人が中庭を望める心躍る空間としています。
水回りにはミナ ベルホネンらしいタイルが配置されています。
2階に繋がるスキップフロアの呼称は、「トレジャールーム」。本やオブジェなど、家族の宝物をディスプレイするスペースです。壁には赤みがかったピーラー材が無数に貼られ木立をイメージ。照明も含め、縦長の空間を印象づけるもので、パーソナルチェアにひとり腰掛け物思いに耽るシーンが想像できます。天井はパンチカードをそのまま使っており、SDGsのコンセプトも伺えます。
2階は、プレハブ住宅ならではの大空間を生かし、壁ではなく大型収納で親の寝室と子供部屋を区切る配置に。
ここで皆川が口を酸っぱくして提言したのが「WORKと完全分離せよ」。
ベッドとデスクが同じ空間にあると寛げないというのです。子供部屋も2段ベッド脇にある円卓は実は共同スペースで、寝室とは別個のものとして誂えてあります。
さりげなく配置されたアートやヴィンテージ家具が空間の質をぐっと向上。それを浮かび上がらせるために、空間自体はシンプルに仕上げることを心がけたといいます。
これまでのどこか近未来で無機質な空間から、人の感性に訴えるような優しさに溢れた空間へ。積水ハウスはこのようなコラボレーションを交えながらこれからの時代の家造りを探求していきたいと意欲を見せています。
[展示場概要]
駒沢シャーウッド展示場「HUE」
東京都世田谷区深沢4−26
駒沢公園ハウジングギャラリーステージ3