1月26日、今年が第3回目になる「TBSドキュメンタリー映画祭2023」のアンバサダー就任式と全15作品の監督による作品紹介が、東京・渋谷の東京カルチャーセンターで行われました。
アンバサダーにLiLiCo
最初に登壇したのは、本映画祭とTBS DOCSのプロデューサー・大久保竜。昨年の11作品から15作品にラインナップを増やしたことについて「反響がもの凄くて単独興行作品も出ました。自分の思いを伝えたいと企画を持ってくる人が増えました。そんな中でどうやって選んだのかと言われたら、監督の熱量の大きい順と言ってもいい」と明かしました。
続いて、本映画祭のアンバサダーに選ばれたLiLiCoが登壇。
『王様のブランチ』を22年経験し、ここでしっかりしたものがやりたかいと思っていたところに届いたオファーに感慨深げで、「若い頃は憧れのタレントのドキュメンタリー『イン・ベッド・ウィズ・マドンナ』などを見ましたが、2012年『シュガーマン 奇跡に愛された男』を観て本格的にドキュメンタリーにハマりました。最近では『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』もありますし。若いうちにジャンルを問わずドキュメンタリーを観て欲しい。心にずっと残るから」とアピールしました。
また、自分が監督ならどんなドキュメンタリーを撮りたいかと問われると、「テレビの裏側を撮りたい」と答え、生まれ故郷のスウェーデンとは違う日本のテレビ「魔法のハコ」の中身を創り上げるにはたくさんの人が関わらなければ成立しない事実を伝えたいと語りました。
熱量ハンパない!全15作品の予告編上映&監督による作品紹介
続いて、全15作品について予告映像が流れ、各監督がそれぞれ2分半のプレゼンテーションを実施しました。
『カリスマ 〜国葬・拳銃・宗教〜』 監督:佐井大紀(コンテンツ制作局) ©TBSテレビ
2月24日公開の『日の丸〜寺山修司40年目の挑発〜』もてがけた佐井監督は「調子に乗ってます(笑)」と言いながらも、今回はTVドラマのエキストラに着目。一般の人に「国家とは?」と問いかけたように、「あなたの人生の主役は誰?」と日本社会のエキストラと主役(カリスマ)に時を超えてマイクを向けます。
『通信簿の少女を探して 〜小さな引き揚げ者 戦後77年あなたは今〜』 監督:匂坂緑里(TBSスパークル) ©BS-TBS
令和4年度文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞受賞作品。ディレクターが偶然手にした画家ゴーギャンの古書に挟まっていた1枚の色褪せた通信簿。それは昭和23年、大分県別府市の小学6年生の少女のものでした。「あの戦争を生き延びた少女に、通信簿を届けたいー」との思いから「日本が歩んだ戦後77年」の断片を体験していきます。
『サステナ・ファーム トキと1%』監督:川上敬二郎(報道局) / 69分 ©TBSテレビ
平成に入って登場した殺虫剤・ネオニコチノイド系農薬による影響を探る大学教授たち。さらにヒトへの懸念も浮上。そこで農薬や化学肥料に頼らない有機農業を取材し始めると、わずか0.6%しかいないことがわかります。やがて、あっと驚くシンプルでユニークな究極の持続可能な農園=サステナ・ファームに遭遇します。
『アフガン・ドラッグトレイル』監督:須賀川 拓(報道局) / ©TBS テレビ
アフガニスタンのタリバン政権は、口では「麻薬は撲滅しなければならない」と山に潜む薬物中毒者を取り締まります。それでも常習者たちは「地獄」と呼ばれる橋の下に集合し、農園では原料が栽培されています。アフガン・ドラッグトレイルにカメラを入れ、アフガニスタンを蝕む薬物の闇とタリバンの真意を探ります。
『東京SWAN1946 〜戦後の奇跡「白鳥の湖」全幕日本初演〜』 監督:宮武由衣(TBSスパークル) / 81分 ©TBSテレビ
1946年、日本バレエの母と称されるエリェナ・パァヴロヴァの悲願を成し遂げるため、門下生である島田廣が前代未聞の『白鳥の湖』全幕初演という無謀な挑戦に奔走。次々と仲間を増やしていく島田の前に現れたのは、若き日に密航し上海でスターダンサーに昇りつめた謎の男・小牧正英。食べ物も稽古着もないなか、手探りで作り上げる奇跡の舞台。Kバレエ カンパニー出身の宮尾俊太郎らとともに再現するシーンにも期待。
『シーナ&ロケッツ 鮎川誠と家族が見た夢』監督:寺井到(RKB毎日放送) / ©TBSテレビ
78年に福岡で結成された「シーナ&ロケッツ」はギター・鮎川誠とボーカル・シーナの夫妻を中心に結成以来休止することなく活動してきたが、2015年シーナが子宮頸がんで急逝。しかし鮎川はバンドの続行を決断。寺井監督は、地元北九州は若松で二人の馴れ初めからはじまるバンド秘話を記録します。
『ダリエン・ルート “死のジャングル”に向かう子どもたち』監督:萩原豊(TBSインターナショナル) / 71分 ©TBSテレビ
中米コロンビアの小さな街ある密林地帯「ダリエン・ギャップ」。険しい地形やギャングの支配などから “死のジャングル”と呼ばれるが、それでも年間13万人以上の難⺠が越境を試みます。彼らが口々に言うのは「子どもたちに自分と同じ人生を歩ませたくない」。その先に希望は?陸路アメリカに辿り着けるのでしょうか?
『魂の殺人 〜家庭内・父からの性虐待〜』監督:加古紗都子(報道局) / 71分 ©TBSテレビ
被害者の心に深い傷を負わせる性虐待は “魂の殺人”と呼ばれ「時効がない」。自身の顔も出して語る渡辺多佳子さんは、4歳の頃から父親から性虐待を50年以上も受け、絶縁状態にあった父親と対峙することを決意します。
『War Bride 91歳の戦争花嫁』監督:川嶋龍太郎(コンテンツ制作局) / 79分 ©TBSテレビ
川島監督の実の叔母・桂子ハーンは91歳。1951年20歳の時に米軍の兵士と結婚し海を渡り『戦争花嫁』とよばれました。身近に日米版『愛の不時着』とも言える真実の愛の物語。何故桂子は敵国の軍人と結婚をしたのか?、そこにあった幸せとは…?
『KUNI 語り継がれるマスク伝説 〜謎の日本人ギタリストの半生〜』 監督:佐藤功一(リアリティ戦略室) / ©TBSテレビ
強い信念のもとアメリカへ渡り、仮面をかぶってLA.メタルブームのど真ん中でギタリストの地位を築き上げたKUNI。メタルファンである佐藤監督は、余り日本では知られていない彼を紹介したいと思ったとき、単なるノスタルジーではなくいまの日本人にも共感してもらいたいと思って制作した作品。
『それでも中国で闘う理由 〜人権派弁護士家族の7年〜』 監督:延廣耕次郎・松井智史(報道局) / 78分 ©TBSテレビ
中国で人権派弁護士が拘束される事案が相次いでいます。「取材に対して声を上げてくれた人たちのためにも」、ある人権派弁護士を追いながら一家の大黒柱を突然失って奮闘する家族を取材、中国社会の現実を見つめます。
『オートレーサー森且行 約束のオーバルへ』監督:穂坂友紀 / ©TBSテレビ
2021年1月の落車事故で、森は「5ミリずれていたら即死していたかもしれない」「一生車椅子生活になるかもしれない」状態に。50を前に、5度の大手術、下半身の50%は今なお感覚がないといいます。それでも復帰戦に向けて、壮絶なリハビリを続けるワケは?「まだ1秒も繋いでない」(穂坂)といいますが2月27日の復帰戦までを追う予定。
『やったぜ!じいちゃん』監督:仲尾義晴(CBCテレビ) / 70分 ©CBC
生まれつき脳性マヒで身体が不自由な舟橋一男75歳。今から50年前にもCBCのカメラが舟橋さんを撮影していました。障がい者4人だけで北陸の温泉に旅する様子を記録したもの。その映像を交えながら、舟橋さんが感じることや暮らしぶりを静かに描きます。ナレーションは塩見三省。
『93歳のゲイ』監督:吉川元基、プロデューサー奥田雅治(毎日放送) / 74分 ©MBS
かつて同性愛は「異常性欲」や「変態性欲」と言われ治療可能な精神疾患とされてきました。そんな中、同性愛者の⻑谷さんに訪れる「出会い」と「別れ」。この国の同性愛の歴史を紐解きながら、本当の自分を隠し続けた「93歳のゲイ」の日々をみつめます。
『劇場版 ヤジと⺠主主義』監督:山﨑裕侍・⻑沢祐(北海道放送) / 78分 ©HBC
2019年7月、札幌で参議院選挙の応援演説をしていた安倍晋三総理(当時) にヤジを飛ばした男女が北海道警察によって排除。表現の自由を警察が奪った問題として注目を浴びたこの問題を追及し数々の賞を受賞したドキュメンタリー番組の劇場版。テレビでは伝えられなかった映像や証言、追加取材を交え再編集しています。安倍氏銃撃事件後さらに重要な意味をもつ問題作。
LiLiCo、涙ながらに総括
ひととおり各監督のプレゼンテーションが終了して、LiLiCoは「どれも熱いプレゼンで観たい作品ばっかり」と感想を語ります。
とくに「思い出しただけで涙が出ちゃう」と漏らしたのは加古紗都子監督の『魂の殺人 〜家庭内・父からの性虐待〜』。「本人は顔出ししているのに父親は顔を隠して。反省してないのかしら。母に助けを求めても、『お父さんがいないと生きていけない』って…。最も安全なはずの家庭なのに」と涙ながらに語っていました。
質疑応答では、『オートレーサー森且行 約束のオーバルへ』を監督した穂坂友紀、『東京SWAN1946 〜戦後の奇跡「白鳥の湖」全幕日本初演〜』を監督した宮武由衣といった、こちらも女性監督に質問が集まっていました。
「TBSドキュメンタリー映画祭2023」は、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷で3月17日(金)〜30日(木)、大阪・シネ・リーブル梅田で3月24日(金)〜4月6日(木)、名古屋・伏見ミリオン座で3月24日(金)〜4月6日(木)、札幌・シアターキノで4月15日(土)〜21日(金)に開催。
(取材・写真・文:遠藤)