篠原一男初期の名作「から傘の家」
篠原一男独自のスタイルが確立された最初の建築とも言われる初期の名作住宅「から傘の家」が、数奇な運命を経て、ドイツのヴァイル・アム・ラインに位置する「ヴィトラ キャンパス」に移築・再建されました。
「から傘の家」はその名前の通り、まるで傘のような特徴的な屋根の下、小さな家族が生活するには十分な空間をもつ正方形平面の木造住宅。篠原は、日本の伝統的な民家や寺院といったヴァナキュラー建築に見られる要素を住宅建築に応用しました。
「から傘の家」のピラミッドのような屋根は、かつては寺院などの仏教建築でしか見られないものでした。同時に、立面を構成する「繊維セメント板」のように、シンプルかつ比較的安価な素材をあえて使用するなど、日本建築史における年代の衝撃的なできごとのひとつとなりました。
幸運な出会いに恵まれた住宅遺産
この「から傘の家」は、前居住者の移転と継承への希望、東京都計画道路に本住宅がかかること等の諸事情を背景に、一般社団法人住宅遺産トラストを介し、偶然の幸福なる出会いからスイスの家具メーカーであるヴィトラが継承し、移築・保存することになりました。
柱と梁の構造による木造建造物は2020年の夏に解体され、部材ごとに分割。使用されていた檜、杉、米松の木材は、その他の部品、材料とともに梱包され、海を渡りヴァイル・アム・ラインへと移送されました。
解体、移送、移築、修復、再建まで、篠原一男のアーカイヴを管理する東京工業大学の全面的な指示とサポートのもと、2021年9月に始まった再建工事は2022年6月、ついに完成を迎えました。
東京・練馬に存在した伝統的な和室がドイツへ移築
篠原は自身の作品を4つの様式に分類、それぞれで異なる問題に挑戦しました。
1961年東京都練馬区の住宅地に建設された「から傘の家」は、第1の様式における作品の中でもっとも小さく、現存する住宅作品の一つです。約55m²の床面積 に対してキッチンとダイニング、リビングルーム、浴室・トイレ、そして寝室として使われた半畳の15枚を設置した伝統的な和室が納められています。
畳の部屋の天井はフラットで、床はリビングよりも少し高くなっており、5枚の襖で仕切られていました。この襖に描かれた 襖絵は、舞台芸術家・朝倉摂との共同によるものです。
傘状の扇垂木の天井は、空間をより大きく見せます。和室と屋根の間のロフトのような空間は、収納スペースとして機能し、昇降のための梯子がかけられていました。
また、オリジナルの家具は篠原と家具デザイナー・白石勝彦の共同によるものです。ヴィトラキャンパスでは、オリジナルの家具と復刻した家具の双方を組み合わせ、当時を再現しています。
「から傘の家」は、2022年6月15日より、ドイツのヴィトラキャンパスで一般公開を開始しました。
(資料提供・Vitra株式会社)